Episode1 航海のはじまり


 

人生には、大切な選択をしなければならないときがある。
大いに悩み、苦しみ、それでも自分の責任で下す決断。そこに後悔が残ることのないように、その決断が正解だと胸を張れるように、人は生きる。
 
そんな人生の選択とともに持ち続けるべきもの、それが「Nogret」。
No regret = 後悔はしない、という意味だ。
 
ライフステージの中で数々の選択をし、今の地位を築いた戦士たち。
彼らが積み重ねてきた「Nogret」とは―――
 
 
 
Episode1 航海のはじまり
 
これまでの人生における決断で、後悔したことがあれば教えて下さい。
 
今日の取材のオープニングクエスチョンだった。
 
 
「ないんですよね、本当にない。」
 
 
笑みを浮かべながらそう答えてくれたのが、今日の主役。

永島英明――

三陽商会を経て大崎電気に入社、プロ契約選手として日本ハンドボールリーグで長らく活躍し、日本代表の主将も務めた、まさにレジェンドである。
2013年に現役を引退したのち、翌2014年に株式会社HIHを設立。
ハンドボールアイテムの日本代理店を務めるかたわら、「JFAこころのプロジェクト」の夢先生としても活動するなど、多角的に業務を展開してきた。
そして20191月に三軒茶屋に「広島焼き とこしえ」をオープンし、今年で4年目を迎える。
貴重な経験を伝えるアスリートとして、会社の代表として、飲食店の店長として、その活動は多岐に渡る。
 
 
「僕はワクワクに従うようにしてるんですよ。」
 
 
ハンドボールの世界にとらわれることなく様々なチャレンジを続けている永島だが、岐路に立った時はいつも気持ちの高鳴る方へ舵を切ってきたという。
 
これは後悔じゃなく、「航海」のおはなし。


 
 


 
 
大阪に生まれ育った永島の幼少期は、サッカーよりもはるかに野球人気が高かった。それもそのはず、阪神タイガースにPL学園など当時の野球界は大阪が中心だったと言っても過言ではないほど。
仲間たちと集まれば、そこにはいつも野球があった。
 

「もっと自分がうまくなったら、どんな選手になるんだろう?」
 

そこにワクワクが生まれた永島は、はじめて打ち込むスポーツに野球を選んだ。ここから全国制覇も達成するなどプレイヤーとしても成長していくこととなる。そして最初にぶつかった大きな壁が、高校進学のときだった。
 
野球の道を選んだ永島が希望した進路は、上宮高等学校。
少し上にはドラフトで大きな話題となった元木大介がおり、メジャーリーガー黒田博樹をはじめ数多くの選手をプロ野球へ輩出した名門校である。自身も大きなステップアップを夢見て上宮高等学校のセレクションを受けたのだが、結果は落選。
 

(野球の)素質がないと思いましたね。スポーツへの興味も無くなりました。」
 

そして永島は、野球を辞めた。
 
 
 
そこから此花学院高校(現:大阪偕星学園高校)へ進学した永島だったが、入学当初はスポーツをする気はもちろんなかった。
 
ところが、ずっと野球をしており、身長も大きかったアスリート体型の永島を周囲は逃さない。ある時、部活のコーチに体育館へ呼ばれ、「制服のままシュートを打ってくれ」と言われたという。
勝手もわからぬまま、見様見真似でジャンプシュートを放った。
初めてのシュートだったが、野球と動作が似ていたこともあり思った以上に自然な流れで打つことができたという。
 
ちなみに、ある国民的漫画の主人公は、高校時代に初めてバスケットボールに触れたときに見様見真似でダンクシュートに挑み、凄まじい跳躍力で周囲をアッと驚かせた。
惜しくもダンクは決まらなかったものの、その感触を忘れられなかった主人公はバスケットボールの魅力を知り、入部する。
そこから彼の活躍がはじまっていくのだ。
 

そう、永島の出来事は、漫画の世界のそれだった。
 

物見遊山で眺めていた周囲のどよめき。
久しぶりにボールを投げた指の感触。
自分のシュートがネットに突き刺さったときの音。
 
そのすべてが、そこから一週間くらい体に残っていたという。
高校に入りスポーツはもうやらないと決めていた永島だったが、その残ったものが例のワクワクに変わってしまったことでその誓いはもろくも崩れた。
 
 
永島英明、此花学院高校ハンドボール部へ入部。
これが、のちに日本代表キャプテンを務めることになるスター選手とハンドボールの出会いだった。
 
 
 
Episode2 ワクワク×しんどい へ続く)

 

著者:山手 渉

カメラマン:高須 力