人生には、大切な選択をしなければならないときがある。
大いに悩み、苦しみ、それでも自分の責任で下す決断。そこに後悔が残ることのないように、その決断が正解だと胸を張れるように、人は生きる。
そんな人生の選択とともに持ち続けるべきもの、それが「Nogret」。
No regret = 後悔はしない、という意味だ。
ライフステージの中で数々の選択をし、今の地位を築いた戦士たち。
彼らが積み重ねてきた「Nogret」とは―――
Episode5 とこしえ、永久。
永島のアルバイト生活は、約3年にも及んだ。
先のビラ配りだけではなく、飲食店でも働いた。そうして生き抜いた日々の果てに、永島は自分の店を持つというチャレンジにたどりついた。
それが、「とこしえ」という店だった。
三軒茶屋から徒歩圏内にある、広島焼きの店だ。
「店を出す時って、人・場所・金の3つが必要なんです。人がいても、場所がなかったらダメ。場所があっても人がいなかったらダメ。人と場所があっても、金がなかったら契約もできない。2つまで揃たことはそれまでもたくさんありましたが、3つ揃うことはそうそうないんです。でも、いつか3つ重なるときは必ずあって、それが僕にとってのやり時だったんです。」
飲食店をやっているところを見てみたいと、言ってくれる人がいた。
たくさんの応援や、支援をしてくれる人がいた。
それもアルバイトをしていからこそ。得られたものだった。
この「とこしえ」の店作りも、永島の大事な思いが込められている。
「とにかく料理人ありきの仕組みにはしたくなかったんです。何かあったときに、(ビジネスが)成り立たなくなっちゃうじゃないですか。これは自分の性格には本当に合わないことで。じゃあ何ができるかっていったら、鉄板しかなかったんですよ。ガキの頃から自分で焼いていましたから。」
店には、信頼できるスタッフがいる。でももし彼らに何かあった時も自分が厨房やホールに立てばよいので、店は問題なく回る。誰かに依存して、自分が存在しづらくなる環境は絶対に作らない。これが、永島の矜持でもあった。
1から100じゃなく、0から1をつくりたい。
それは、フロンティア・スピリットと言ってしまえば聞こえはいいが、きっとそれだけではない。自分で0から1をつくり、1を100にする努力をし、葛藤しながらその100をまた0に捨て去って、1を作ってきた人生が詰まった言葉のように感じた。
そして永島は、この先の新たなチャレンジも見据えている
例えば、自社で手掛ける初のアパレルブランド。しっかりとニーズを捉えたコンセプトで、今のデジタルシフトな世の中に最適な形でリリースするべく、準備を進めているという。さらには、アカデミック領域での新規ビジネスも準備中だ。教育機関と連携して、研究したものをすぐに商品化して販売できるような構想を持っているという。
こうしたチャレンジの根底にあるのは、アスリートのセカンドキャリアサポートへの想いだった。
「みんなの足回りになってあげたいと思ってるんです。例えば飲食店をやりたいって思うなら、店に来ればノウハウを教えてあげられます。僕のセカンドキャリアなんて、8年くらいくすぶってましたからね。貯金がどんどん減っていく経験もしたけど、そこから起死回生をおこした経験もある。もちろんいい経験だったけど、それは僕が10年くらい経って語るようなこと。これからの子たちには後悔をさせたくないし、できるだけ最短で彼らが何かやれたらいいなと。」
店の名前の「とこしえ」を漢字で書くと、「永久」。
いつまでも、永島の元に人が集まり、そこからまた新たなチャレンジが生まれ続けていく。ずっと人も思いも廻っていく、そんな場所になるようにという想いが込められているそうだ。
自分で針路を決め、自分で進み、自分で針路を変える。
常に自分軸で物事を考えてきたからこそ、その決断に後悔は生まれない。。
「やるのもやめるのも、全部自分で決めることができたことは幸せでした。」
後悔のない、航海。
それが、永島英明が体現してきた『No regret』。
(MY NOGRET by Hideaki Nagashima おわり)
著者:山手 渉
カメラマン:高須 力